ネイチャーライティング[Nature Writing]

 本格的に“nature writing”という用語が使用され始めたのは、20世紀はじめのアメリカにおいてであると考えられている。19世紀以前は“natural history”という言葉が使われていた。
 T・ライアン(Thomas J. Lyon)の『この比類なき土地―ネイチャーライティング小史』(1989年)によれば、ネイチャーライティングとは、博物誌に関する情報(natural history information)、自然に対する作者の感応(personal reaction)、自然についての哲学的な考察(philosophical interpretation)の三つの特徴を備えた文学ジャンルということができる(5)。さらにライアンはネイチャーライティングを次の七つのカテゴリーに分類している。1.野外ガイドおよび専門的な論文、2.博物誌のエッセイ、3.A・ディラード(Annie Dillard)の『ティンカー・クリークのほとりで(Pilgrim at Tinker Creek)』(1974年)のような自然逍遥、4.H・D・ソロー(Henry David Thoreau)の『ウォールデン―森の生活(Walden; Or, Life in the Woods)』(1854年)やE・アビー(Edward Abbey)の『砂の楽園(Desert Solitaire)』(1968年)に代表される孤独と僻地での生活をテーマとしたエッセイ、5.ソローの『メインの森(The Maine Woods)』(1865年)のような旅と冒険についてのエッセイ、6.農場の生活に関するエッセイ、7.自然における人間の役割についての文章である(5)。
 そして、ライアンはネイチャーライティングの決定的な意義は、それによって読者がエコロジカルなものの見方に目覚めることである、と述べている(xii)。自立したジャンルとしてネイチャーライティングが注目され、現代のアメリカのアカデミアのカリキュラムに組み込まれ始めたのは、1976年頃のことである(山里 226)。
 例えばL・ビュエル(Lawrence Buell)に従えば、エコクリティシズムは90年代の「第一波」と、21世紀に入ってからの「第二波」に分類されるが、「第一波」の最も大きな特徴は、ネイチャーライティングへの関心の強さであるという。すなわち、野生の自然やウィルダネスに着目し、近代化が人間にもたらす弊害を考え、自然の意味、自然と人間の関係への省察へと思索を深める傾向がみられたわけだが、それらはまさしくネイチャーライティングの特徴であった(結城 94)。
 ネイチャーライティングに関する著書をみてみると、1989年の前述したライアンの著作やR・フィンチ(Robert Finch)とJ・エルダー(John Elder)が編集したNorton Book of Nature Writing(1990年)が出版され、90年代に入るとS・スロヴィック(Scott Slovic)やP・A・フリッツェル(Peter A. Fritzell)などの研究書が次々と出版された。1993年には、学術誌ISLE: Interdisciplinary Studies in Literature and Environmentが創刊された。1995年に出版されたビュエルのThe Environmental Imaginationは、ネイチャーライティングというジャンルがいかに文学的にも文化的にも重要であるかを強く読者に印象づけた(山里 226)。
野田研一の『交感と表象』(2003年)によると、ネイチャーライティングというジャンルが日本で認知されるようになったのは、1990年代である(10)。1993年、雑誌『フォリオa』の特集号「<自然>というジャンル―アメリカ・ネイチャー・ライティング」で文学上の一つのジャンルとして、ネイチャーライティングという用語が初めて日本で使用された。その後、『英語青年』(1995年2月号)、『山と渓谷』(1995年2月号)、『グローバルネット』(1995年5月号)、『ユリイカ』(1996年3月号)などでネイチャーライティングが特集され、注目されていった(野田 10)。
 ネイチャーライティングは、一般的に自然と人間を扱う一人称形式のノンフィクションを指すことが多い。しかし、現在では、「環境文学」(environmental literatureまたはenvironmental writing)と表現する場合には、人間中心主義的な世界観を批判し、自然環境と人間の対話や交流、共生を主なテーマとするノンフィクション、詩、小説、エッセイ、演劇など、自然が大きく取り上げられるすべての文学を含む(山里 227)。

(石井英津子)

 

参考文献

伊藤詔子『よみがえるソロー―ネイチャーライティングとアメリカ社会』(柏書房、1998)
スコット・スロヴィック、野田研一「序―エコクリティシズムの方位」スロヴィック、野田編著『アメリカ文学の<自然>を読む』(ミネルヴァ書房、1996)1-12.
高田賢一「ソローとネイチャーライティングの系譜」『STUDIO VOICE』第350号(2005):42-43.
野田研一『交感と表象―ネイチャーライティングとは何か』(松柏社、2003)
文学・環境学会編『たのしく読めるネイチャーライティング』(ミネルヴァ書房、2000)
山里勝己「ネイチャーライティング」『ユリイカ』第28巻4号(1996):226-27.
結城正美「エコクリティシズムをマップする」『水声通信』第33号(2010):86-98.
トーマス・ライアン『この比類なき土地―アメリカン・ネイチャーライティング小史』村上清敏訳(英宝社、2000[原著:1989])

 

2015年1月21日公開

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