動物[animals]

 地球上には、少なくとも150万種の動物が存在する。哺乳類を含む脊椎動物が占める割合は、そのうちの約5%とされる。自然科学の分野において、動物を研究対象とする主だった学問としては、動物学(zoology)、生態学(ecology)、生物学(biology)がある。人文科学の分野では、「動物と人間の関係性」が議論の主たる対象とされ、その研究傾向は、「動物表象の文化的分析(cultural analysis of the representation of animals)」と、「動物の権利をめぐる哲学的考察(philosophical consideration of animal rights)」の2つに分けられる(Garrard 136)。

 「動物表象の文化的分析」の代表例としては、美術評論家J・バージャー(John Berger)による1977年の論文「なぜ動物を観るのか?(“Why Look at Animals?”)」が挙げられる。バージャーはここで、「動物とは常に観察される存在である」と指摘しつつ(27)、動物園の来園者を例に、「視線を相手〔動物〕から返されることのない人間は孤独である」とも述べている(42)。すなわち、動物と人間の関係性の中心に位置するのは「観察(observation)」という行為であり、それは、人間が動物に対して一方的に行使してきた、権力の一形態なのである。

 それゆえに、「観るもの」と「観られるもの」という不平等な関係は、例えば植民地主義にみられる「搾取するもの」と「搾取されるもの」という関係の本質であり、その暗喩にもなる。フェミニズム批評家のD・ハラウェイ(Donna Haraway)は、動物研究と植民地主義の類似関係を指摘しながら、人間に最も近い存在とされる霊長類を扱った霊長類学(primatology)の歴史を分析し、猿や類人猿を観察する行為が、西欧世界における社会的・文化的規範の構築に深く関係していることを明らかにした。1989年に発表された大著『霊長類学的ヴィジョン(Primate Visions)』は、自然科学/人文科学/社会科学の諸領域を横断する、画期的な「動物表象の文化的分析」である。

 一方で、「動物の権利をめぐる哲学的考察」としては、『動物の解放(Animal Liberation)』を著わした哲学者P・シンガー(Peter Singer)の仕事が有名だが、ここでは議論の散逸を避けるため、ふたたびハラウェイの著作を参照したい。2003年に発表されたハラウェイの『コンパニオン・スピーシーズ・マニフェスト(The Companion Species Manifesto)』は、犬のような愛玩動物や、馬のような使役動物を、人間という「種」の「コンパニオン/伴侶」であると説明する。もちろん、基本的に「コンパニオン」という概念は、人間に近しい動物の権利を主張するものである。しかしながら、そこに含意されるのは、動物という存在を議論する上で、それらと人間社会がいかなる関係性にあるかを考察することの重要性である。「コンパニオン」とは、あくまでも社会化された動物たちを対象とする概念であり、私たちはここから、社会化されていない動物である「野生動物(wildlife)」や、あるいは食肉の対象とされる「家畜(domestic animals)」のような存在へと、考察の対象を広げていくことが可能となるのだ。また、野生動物も家畜も、それが実験の対象とされる際には「実験動物(laboratory animals)」と呼ばれ、それらの「権利」に関しては、特に慎重な議論が必要とされる。これに関しては、同じくハラウェイの著書『慎ましい証人(Modest_Witness@Second_Millennium)』における、実験用マウスの議論を参照されたい。

 最後に、従来の「文化的分析」とも「哲学的考察」とも異なる、「感情的考察」とでも呼ぶべきアプローチで注目を集めているのが、T・グランディン(Temple Grandin)の仕事である。動物の感情を第一に考える動物学者であるグランディンは、家畜の側に立った食肉処理施設を設計するなど、従来の西欧的思考法とは異なるアプローチで動物という存在に向き合っている。彼女の主な著作として、C・ジョンソン(Catherine Johnson)との共著『動物感覚―アニマル・マインドを読み解く(Animals in Translation)』を挙げておく。

(波戸岡景太)

 

参考文献

 

・テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン『動物感覚―アニマル・マインドを読み解く』中尾ゆかり訳(NHK出版、2006[原著:2005])

・ピーター・シンガー『動物の解放:改訂版』戸田清訳(人文書院、2011[原著:1975])

・ジョン・バージャー「なぜ動物を見るのか? ジル・エローに捧ぐ」『見るということ』飯沢耕太郎監修、笠原美智子訳(ちくま学芸文庫、2005[原著:1980])10-42.

・Garrard, Greg. Ecocriticism. New York: Routledge, 2004.

・Haraway, Donna. The Companion Species Manifesto: Dogs, People, and Significant Otherness. Chicago: Prickly Paradigm, 2003.

---.Primate Visions: Gender, Race, and Nature in the World of Modern Science. New York: Routledge, 1989.

---. Modest_Witness@Second_Millennium.FemaleMan©_Meets_OncoMouse™: Feminism and Technoscience. New York: Routledge, 1997.


2013年5月14日公開、2013年7月14日更新

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