生態(生命)地域主義[bioregionalism]

 文学研究の分野では主に「生態地域主義」が使用される。また厳密に訳語を当てずに「バイオリージョナリズム」と訳される場合もある。自分たちが居住し生活を営む場である地域において、自然と人間との昔からある相互のかかわりを再度見つめなおすことで、その土地の特性や自然の持続性を損なわないような生活様式を構築していこうという試み。地域の生態系に適応する地域社会を目指す地域共同体ベースの運動である。1970年代前半にアメリカのエコロジスト、P・バーグ(Peter Berg)によって提唱された。

 「生態地域(bioregion)」とは自治体や町村などの行政上の区割りではなく、地理的・生態系的にみた地域の特徴から決まり、古くからその土地に固有の文化が育まれてきた地域である。多くの生命地域は河川とその支流が流れ込む流域を中心とすることが多い。隣接する地域とは異なる、その地域に特有の植物相や動物相をもつ地理的空間であり、自然の様相によって左右されるために柔軟性と可変性を持っている。

 生態地域主義は次のような特徴を持つ。①地域の自然生態系の機能の回復と維持、②地域内でゼロエミッションの循環型システムの構築、③持続可能な地域生態系資源を活用し高付加価値化した地域と調和した産業や技術の創出、④地域情報の発信を通じて他地域や世界とのコミュニケーションを図ることによるネットワーク社会の構築(赤池 22-23)。

 その地域に存在する自然資源に着目し、そこに文化や技術、人材などの人的資源を組み合わせることで地域内の循環型システムを作り、それを持続可能なものにしていく。またそこでの経済は自然を搾取するのではなく維持するものになる。したがって生態地域主義の経済は自然の資源の利用を必要最小限にし、汚染と廃棄物の排出を極力抑え、その地域でエネルギーを循環利用できるゼロエミッションのシステムを作り上げる。地域で生産されたものを地域で消費するという意味では自給自足と似た考え方ではあるが、自給自足的な閉塞した社会ではなく、地域の自然資源に加えて人的資源も活用し、地域独自の産業や教育をデザインすることで環境を守りながらも経済的に自立した地域を目指そうという試みも含まれる。

 また自分たちの住んでいる場所に根付き、土地とのかかわり合いを常に意識しながら住むという意味で「再定住(reinhabitation)」の重要性が強調される。そのためには地域が持つ自然環境や、人間の生活とその自然環境とのかかわりを自覚し、自分の住む地域の特徴についてよく学ぶことで、歴史の中で切断されてきた人と自然、人と人とのかかわりを再びつなぎ合わせることが必要である。

 北米ではバーグが主催するプラネット・ドラム協会(Planet Drum Foundation)がこの取り組みの中心的役割を果たしてきた。同協会が実践するグリーンシティ・プログラムは、生命地域主義の考え方を都市に応用し、自立性と持続性を高めた「緑の都市」へと発展させることにおいて大きな成果をあげている。またアメリカの詩人G・スナイダー(Gary Snyder)は自らを「生態地域主義者(bioregionalist)」と称し(スナイダー 175)、地域の歴史や祖先の知恵に敬意を払いながら長期にわたる持続可能性を考えていくために「場所の感覚(sense of place)」を提起している。

(庭野義英)

 

参考文献

・赤池学「『生命地域主義』によるコミュニティ・マインドの復権」『社会教育』第53巻11号(1998): 22-27.

・ゲーリー・スナイダー「場所の詩学」山里勝己訳 生田省悟、村上清敏、結城正美編『「場所」の詩学―環境文学とは何か』(藤原書店、2008)160-177.

・プーラン・デサイ、スー・リドルストーン『バイオリージョナリズムの挑戦 この星に生き続けるために』塚田幸三、宮田春夫訳(群青社、2004[原著:2003])

・福永真弓「生命地域主義の思想に見る可能性とその難点―北アメリカにおける持続可能な地域社会の探究―」『国際関係学研究』第28号(2002): 23-39.

・文学環境学会編『たのしく読めるネイチャーライティング』(ミネルヴァ書房、2000)

・Berg, Peter. Reinhabiting a Separate Country: A Bioregional Anthology of Northern California. San Francisco: Planet Drum Foundation, 1978.

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